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高松高等裁判所 昭和63年(ネ)318号 判決

主文

一、原判決主文第一項及び第二項を取り消す。

二、被控訴人ら及び被控訴人共同訴訟参加人の主たる請求を棄却する。

三、原判決主文第三項を次のとおり変更する。

控訴人は、被控訴人ら及び被控訴人共同訴訟参加人に対し、別紙不動産目録記載の土地につきなされた別紙登記目録記載(二)の登記を、取得者を被控訴人ら及び被控訴人共同訴訟参加人につき持分各八分の一、控訴人につき持分八分の五とし、原因を昭和五九年一月七日相続とする所有権移転登記に更正登記手続をせよ。

四、被控訴人ら及び被控訴人共同訴訟参加人の予備的請求のその余の部分を棄却する。

五、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は、第一、二審を通じてこれを三分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人ら及び被控訴人共同訴訟参加人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らの当審において変更した主たる請求及び予備的請求をいずれも棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら及び被控訴人共同訴訟参加人代理人は、「本件控訴を棄却する。当審において訴を変更し、主位的請求の趣旨として、1 控訴人は、被控訴人らに対し別紙不動産目録記載の土地(以下、「本件土地」という。)につきなされた別紙登記目録記載(一)及び(二)の登記を、それぞれ取得者を被控訴人中田英明について一一一〇分の四九五及び同中田文明について一一一〇分の三〇七の各持分割合とし、原因を昭和五八年四月一日相続とする所有権移転登記に更正登記手続をせよ。2 訴訟費用は控訴人の負担とする。との判決、予備的請求の趣旨として、1 本件土地が亡中田芳馬の遺産であることを確認する。2 控訴人は、被控訴人ら及び被控訴人共同訴訟参加人に対し本件土地についてなされた別紙登記目録記載(一)及び(二)の登記を、それぞれ取得者を被控訴人ら及び共同訴訟参加人につき持分各一六分の三とし、原因を昭和五八年四月一日、同五九年一月七日相次相続とする所有権移転登記に更正登記手続をせよ。3 訴訟費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二、当事者双方の主張

1. 被控訴人ら及び被控訴人共同訴訟参加人(以下単に「被控訴人ら」という。)の当審における訴変更後の請求原因

(一)  本件土地は、中田芳馬の所有であった。

(二)  中田芳馬は昭和五八年四月一日死亡し、その妻作幸枝、長男の控訴人、二男の被控訴人共同訴訟参加人、三男の被控訴人英明及び四男の被控訴人文明が相続した。その後、作幸枝が昭和五九年一月七日死亡し、前記四人の子がこれを相続した。

(三)  本件土地に対する相続分割合

(主位的請求の原因)

(1) 亡芳馬は、昭和五八年二月一日付自筆証書遺言を作成しており、右遺言書は昭和五九年一一月ころ被控訴人共同訴訟参加人によって発見され、同月一六日高知家庭裁判所で検認がされた。

(2) 右遺言書によれば、「本件土地(一反一畝六歩)のうち、北一五〇坪(四九五平方メートル)を実測のうえ被控訴人英明に、南一八六坪(六一四平方メートル)を控訴人と被控訴人文明で折半とす。」と相続すべき者及び分割方法が指定されている。

(3) 本件土地の地積は、一一一〇平方メートルであるから右遺言の趣旨により、被控訴人英明は一一一〇分の四九五の共有持分を、控訴人及び被控訴人文明は各一一一〇分の三〇七の共有持分を有することになる。

(予備的請求の原因)

(1) 亡芳馬の右遺言が仮に無効であったとしても、同人の死亡により本件土地について妻作幸枝が二分の一、前記四人の子がそれぞれ八分の一の割合で法定相続した。

(2) 作幸枝は、昭和五九年一月七日死亡したが、同人は、昭和五八年八月二七日付公正証書により、同人の全財産を控訴人に相続させる旨遺言をしていた。

(3) この事実を昭和五九年一一月ころ知った被控訴人らは、昭和六〇年二月七日到達の内容証明郵便により控訴人に対し遺留分減殺請求をした。

(4) よって、被控訴人らは、本件土地について、芳馬からの法定相続分の各八分の一と、作幸枝の相続について遺留分減殺請求によって取戻した各一六分の一の合計各一六分の三の共有持分権を有するものである。

(四)  ところが、本件土地につき芳馬及び作幸枝の相続に関し別紙登記目録記載(一)及び(二)の登記がなされ、現在控訴人の単独所有名義となっている。

(五)  よって、被控訴人らは、主位的並びに予備的に請求の趣旨記載の各更正登記手続を求める。

2. 請求原因に対する控訴人の認否

(一)  請求原因(一)及び(二)の事実は認める。

(二)  同(三)につき

(主位的請求の原因に対し)

(1)の事実は認める。

(2)の事実については、遺言書の記載がその主張どおりであることは認めるが、右遺言では、被控訴人英明の取得する北側が実測面積によることは明らかであるが、控訴人と被控訴人文明で折半することになる南側は実測によるものか、台帳面積によるものか、遺言者の意思は不明確であるから、右遺言を有効なものとみることはできない。

(3)の主張は争う。

(予備的請求の原因に対し)

(1)の事実については、芳馬が死亡したこと及び同人の法定相続人が被控訴人らの主張どおりであることは認めるが、本件土地が法定相続分に従って相続されたことは否認する。

(2)及び(3)の各事実は認める。

(4)の主張は争う。

(三)  請求原因(四)の事実は認める。

3. 控訴人の主張

(一)  芳馬の相続に関しては、昭和五八年八月一四日共同相続人全員の間で、本件土地を作幸枝に単独で相続させる旨の遺産分割協議が成立した。これは、共同相続人間において各自が相続によって取得することのあるべき共有持分権を作幸枝に贈与することとしたものであり、その結果、別紙登記目録記載(一)の登記がされた。

(二)  次いで、作幸枝の死亡に伴う相続に関し、控訴人は作幸枝が昭和五八年八月二七日付でした「全財産を控訴人に相続させる」との公正証書遺言により本件土地を遺贈されたので、これに従い別紙登記目録記載(二)の登記がされた。

4. 控訴人の主張に対する被控訴人らの認否及び反論

(一)  控訴人主張(一)の合意がなされたことは否認する。ただ、昭和五八年九月ころ、本件土地の名義を作幸枝にすることについて相続人間に合意をみたが、右合意は、被控訴人らが芳馬の相続に関する各人への相続税の延納手続をするのに大蔵省への担保に供するため、一旦形式上作幸枝の単独名義とすることにしたものにすぎず、真実の分割協議でもなければ、各人が共同相続による持分権を作幸枝に贈与したものでもない。

(二)  仮に、右合意が控訴人の主張する内容のものであったとしても、右合意の時以前に芳馬の自筆証書遺言及び作幸枝の公正証書遺言が作成され、特に後者の遺言によれば作幸枝の財産の全部が控訴人に相続されることになっていた。この事実を控訴人のみが知り、他の者に秘していたものである。かかる内容の遺言があることが相続人間で共通の認識になっていたならば、被控訴人らは右合意をしなかったはずである。したがって、右合意は要素の錯誤があって無効である。

5. 当事者双方の証拠の関係〈略〉。

理由

一、請求原因(一)、(二)及び(四)の各事実は、当事者間に争いがない。

二、そこで、まず、芳馬の死亡に伴う相続により本件土地が作幸枝の単独所有となったか、被控訴人らとの共有となったか否かについて検討を加える。

1. 成立に争いのない乙第六号証の一、二、原審証人(当審被控訴人共同訴訟参加人)中田博明の証言(後記措信しない部分を除く。)、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によると、控訴人、被控訴人らの相続人は、亡芳馬の初盆である昭和五八年八月一四日、母作幸枝方に集り、法事を営んだ際、遺産の処理について話し合った結果、右相続人らは、本件土地について各自が相続による共有持分権を有することを前提に本件土地は生前芳馬からもらったと信じ込んでいる作幸枝の意思を尊重するとともに、たとえ同人の単独所有としてもいずれ近い将来被控訴人ら相続人において相続することになるとの見とおしから、作幸枝に単独で相続させることにしたものであることが認められる。

もっとも被控訴人らは、芳馬の死亡後作幸枝名義に相続登記(別紙登記目録記載(一)の登記)をしたのは相続税延納の担保に供する便宜のためにしたものにすぎないと主張し、原審証人中田博明(当審被控訴人共同訴訟参加人)の証言中には右主張に副う部分がある。

しかしながら、右供述部分はたやすく措信できない。すなわち、芳馬の遺産相続に関し相続税延納のため本件土地を担保に供する必要があったとしても、それがために作幸枝の単独名義に登記をする便益は存在せず、むしろ被控訴人ら相続人全員で相続したのならその旨登記をするのが筋合であり、そうしたことによって担保を設定する際に不便、不利益となるものではない。このことは、成立に争いのない甲第一号証によって明らかな如く、被控訴人らの相続税延納の担保のための抵当権は、被控訴人ら各人毎に設定(三個の抵当権設定)されている事実に徴しても明白なところであり、もし、被控訴人らによる共同相続登記がされていたとしても、結局は同じことになるものと推定されるところである。

他に、前記認定を覆えすに足りる証拠はない。

したがって、本件土地につき作幸枝名義に相続登記をしたのは、被控訴人ら相続人の真意に基づく遺産分割協議の結果であって、単なる形式上のものでも、また、相続税延納の担保に供する便宜上のためのものでもないというべきである。

遺産分割協議の結果作幸枝の所有となったとの控訴人の主張は理由があり、これに反する被控訴人らの主張は失当である。

2. 被控訴人らは、また、右遺産分割協議の当時、芳馬の遺言及び作幸枝の遺言が存在していたのに、被控訴人らはこれを知らずに合意したものであるから、本件土地を作幸枝の単独相続とする遺産分割協議は無効であると主張する。

確かに、前示当事者間に争いのない事実によれば、芳馬は昭和五八年二月一日、自筆証書により本件土地についてそのうちの北一五〇坪を被控訴人英明に、南一八六坪を被控訴人文明及び控訴人の折半とする旨遺言しているのであるが、しかし、被控訴人らは本件土地につき相続分を有することを前提として前記の如く作幸枝に単独相続させたのであるから、被控訴人らが当時たとえ右遺言の存在を知るところとなったとしても、作幸枝の希望を容れて同人に相続させたという動機から勘案すれば、分割協議の結果には影響を与えることにはならなかったと推認できるところであって、被控訴人らが右遺言の存在を知らなかったことは、被控訴人らのした右遺産分割協議を要素の錯誤として無効ならしめるものではない。

また、成立に争いのない甲第四号証によれば、作幸枝の遺言書は、昭和五八年八月二七日作成されたものであることが認められるから、右遺言は作幸枝に単独相続させることを合意した右遺産分割協議のあとに作られたものであることは明白であり、したがって、右遺言書の存在を知らずに遺産分割協議をしたことを理由とする被控訴人らの錯誤による無効の主張は失当である。

以上の次第で、本件土地は亡芳馬から相続により作幸枝に移転されたから、被控訴人らが法定相続分により(ママ)本件土地の所有権(共有持分権)を取得したとする被控訴人らの主たる請求並びに、本件土地が亡芳馬の遺産であることの確認を求める予備的請求はいずれも理由がない。

三、次に、予備的請求である作幸枝死亡後の本件土地の所有関係について判断をすすめる。

1. 芳馬の死亡に伴い、本件土地の所有権は相続人らの遺産分割協議の結果作幸枝の単独所有となったことはさきに認定判断したとおりであるから、法定相続により被控訴人らの共有関係となったとの予備的請求原因(1)の失当であることは、いうまでもない。

2. しかるところ、作幸枝が前記公正証書により、全財産を控訴人に相続させる旨遺言してのち昭和五九年一月七日死亡したこと、その相続人が被控訴人ら及び控訴人の四人の子であること及び被控訴人らが作幸枝の遺言の存在することを知ったのが昭和五九年一一月ころであり、同人らが昭和六〇年二月七日到達の書面で控訴人に対し遺留分減殺請求をしたことは、いずれも当事者間に争いがなく、作幸枝には本件土地の外遺産がなかったことは弁論の全趣旨により認められるから、本件土地を控訴人に遺贈することは他の相続人の遺留分を侵害するものであるということができる。したがって、右遺留分減殺請求は有効であり、右遺贈の効力は、被控訴人ら三名各自につき遺留分権八分の一(二分の一に相続分たる四分の一を乗じたもの)の限度で効力を失ったものというべきである。

3. 以上のとおりで、本件土地は、控訴人が八分の五、被控訴人ら(被控訴人共同訴訟参加人を含むこと前示のとおり)が各八分の一の割合で共有しているものであるから、被控訴人らの予備的請求のうち別紙登記目録記載(二)の登記につき更正登記手続を求める請求は、右の限度の更正登記手続を求める限度で正当であるから、右限度で認容すべく、右限度を超える部分及び同登記目録記載(一)登記の更正登記手続を求める部分は失当として棄却されるべきである。

四、よって、原判決主文第一項及び第二項を取り消し、被控訴人らの主たる請求及び予備的請求のうち遺産確認を求める請求を棄却し、予備的請求のうち、本件土地に関する別紙登記目録記載(二)の登記につき原判決主文第三項を本判決主文第三項のとおり変更し、右認容部分を超える請求(登記目録記載(二)の更正登記を求める部分を含む)を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

不動産目録

所在 土佐市〈以下編集注・略〉

地番 甲九七四番

地目 田

地積 壱壱壱〇平方メートル

登記目録

(一) 所有権移転

高知地方法務局高岡出張所昭和五八年九月弐六日受付第四八参参号

原因 同年四月壱日相続

所有者 土佐市〈以下編集注・略〉 中田作幸枝

(二) 所有権移転

高知地方法務局高岡出張所昭和五九年弐月弐壱日受付第七弐七号

原因 同五九年壱月七日相続

所有者 土佐市〈以下編集注・略〉 中田公明

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